油そば伝説

(2001.5)

今回は写真無しね。


皆さんは「油そば」という食べ物をご存知だろうか。

一口に言えば・・・ スープに浸かっていないラーメンなのである。

スープの代わりに「たれ」というか「濃縮スープ」というか、そういうものがそのまま油で溶いた状態でどんぶりの底に入っていて、それに麺をぐちゃぐちゃかき混ぜて絡めて食べるのである。混ぜるうちに少々冷めるので、猫舌の人向きかな。

これまで何回か「油そば」と称するものを何軒かのお店で食べてきた。ところが聞くところによると、初めてこの「油そば」を世に送り出したといわれる伝説の店があり、当然ながら真のオリジナル「油そば」がその店にはあるらしい。

その店の名は珍々亭。今回初めてこの珍々亭で油そばを食べることができたので報告したい。

実はこれまでに何回かこの珍々亭を訪れているのだが、なぜかいつも閉店しており、やはり不況には勝てないのか、伝説はやはり伝説に終わるのかと、かなり失礼なことを思っていたりていた。どうもそれはたまたま行った時間が営業時間外なだけだったようだ。

聞くと営業時間は午前11時頃から麺がなくなるまでという。時間で言うと大抵午後4時半頃に麺が無くなる場合が多いそうだ。

店の前には、特に「油そば」を前面に押し出すような看板は何も掛かっていない。ひっそりとした佇まいの超地味なお店である。誰かに教えられないとこの店が油そばのすごい店だとは気づかないだろう。うっかりするとここに中華料理屋があることすら見落とすかもしれない。

店に入ってみるとそんなに広くはない。カウンターがあって、他にテーブルが3〜4つある。店員はおばちゃん3人。そして奥の調理場にご主人が居られるようだった。

私が入店した時間は午後3時くらいという特にメシ時とは全く関係ない時間帯だったが、そこには既に3組のお客さんがおり、私が店にいる間も良いペースでお客さんが出たり入ったりして、常に3組くらいの客がいるという状態をキープしていた。もしこれが昼時ならかなりの混雑になるに違いない。

メニューは壁に掛かっている札のみで、紙に書かれたようなものはない。一番右側に、「油そば」があり、順に「油そば大盛り」「油そば特大盛り」「チャーシュー油そば」「チャーシュー油そば大盛り」「チャーシュー油そば特大盛り」「ラーメン」・・・と続く。「チャーハン」などもある。

私は、単に「油そば」だけでは寂しいと思ったので、「チャーシュー油そば(850円)」を頼むことにして、カウンターに座りながら、「チャーシュー油そばください」と、おばちゃんの1人に言った。すると「大きさは?」という。

どうもこの店では、“大きさを告げない”=“並” ということではないらしい。「普通で」と、とりあえずそう答えたが、後から来るお客さんを見ていると、単に「大盛り」とか言って注文している。

某大学が近くにあるので、大盛りや特大が注文される比率がきっと高いのであろう。だから並盛りの場合は、あえて「並」といわなければ通らないのだ。そして元祖油そばの店だけあって、ここでは「油そば」という単語は省略して注文するのだ。「チャーシュー油そば(大きさ並)」ならば「チャーシュー並」と注文しなければならなかった訳だ。この流儀さえ覚えておけば次回行ったときに常連顔ができる。

「チャーシュー並」を待つ間、さほどすることがないので、その間お店の人の様子を見ていることにした。

しばらくすると外からお客さんが入ってきて「出前用のメニューが欲しいんですが」と注文していた。すると、おばちゃんが、「そういうのはないんですよ・・・」と困っていた。出前はしていないのだろうと思ったら、おばちゃんは「出前でできるのは、油そばの並と大と特大でしょ、それにチャーシュー油そばの並と大と特大・・・」と延々メニューを読み上げていた。出前やってたのか・・・と思うのと同時に、今おばちゃんだって壁のメニュー見ながらなのに、そんな延々読みあげたってお客さん覚えきれるわけないよなぁと思った。きっと出前で注文するような人はほとんど「油そば」か「チャーシュー油そば」のどちらかしか頼まないのでメニューは不要で、これまでメニューが欲しいなんていう人はきっと皆無だったのだろう。

そうこうしている間に「チャーシュー並」が出来上がってきた。

麺は太麺である。「たれ」はやはりどんぶりの下3分の1くらいまでしかない。麺の上には鳴門1枚、メンマ数本、分厚いチャーシューが5枚乗っている(チャーシュー油そばだからね)。

このチャーシューがすごい。厚さは6〜8ミリくらいある。ただ、パサパサしていて歯ごたえがある。油そばはスープの無いそばなのだから、しっとりしているタイプのチャーシューの方が良いと思うかもしれないが、こういうパサパサの歯の間に挟まるチャーシューは個人的に大好きなのでいいのだ。(笑)

ここに「チャーシュー並」の写真が入っているものと思ってください。

これを全部、かき混ぜて「たれ」に絡めて食べる。やはり元祖だけだって思ったとおりの味わいである。濃い「たれ」の味と、麺のプレーンな味がコントラストを描き出すのだ。それって全然混ざってないだけじゃんと思うかもしれないが、どうも完全に混ぜないほうが僕的にはよいのである。この食べていて、ところどころ味が濃かったり薄かったりする感じが癖になるのではないかと思う。

食べて思ったことは、全然油っぽくないことだ。他店で食べた「油そば」のなかには、まさに名は態を表すという言葉どおりのギトギト系のものがあった。しかしながらこの元祖は、油は無いとは言わないが油っぽくないのである。つまり、麺の量と元のたれの量、油の量が絶妙であり、ひとつとして多すぎるものが無いのだ。その証拠に食べた後どんぶりには何も残らず、最後までおいしく食べることができた。

ここに珍々亭の写真が入っているものと思ってください。

さて、この珍々亭だが他のホームページでいろいろ調べた結果、どうもお店の場所などを公表してはいけないことになっているらしい。そのため、今回のこの記事には写真やその他の細かい情報は一切載せないことにした。

お店はJR中央線・武蔵境駅北口から歩いて12〜13分ぐらいの距離の場所にある。

興味のある方は、インターネットで適当に検索すればそれなりに出てくるので、そっちで調べてみてほしい。